昨日は家事など何もできず、横になってDVD鑑賞をしていました。
先日は能を三本立てで鑑賞しましたが（記事は⇒✨こちら）、昨日は狂言三本立てでした。

余談ですが、日本の歴史上もっとも有名な人物で演じられた狂言は、何だったかご存じですか？
それは豊臣秀吉の醍醐の花見の時に演じられた、『耳引き』という狂言で

　太郎冠者：豊臣秀吉
　　　主人：徳川家康
　　　　客：前田利家

と、記録されています。
『耳引き』という狂言は現在残っていないので、確かなことはわかりませんが、現在の『口真似』という狂言のことではないかと言われています。
こんな豪華キャストの狂言、一度見てみたいものです。

話を戻します。
昨日見た狂言は新作狂言『かけとり』『濯ぎ川』と古典狂言『貰聟』の3本でした。
新作狂言というのは、明治以降に作られた狂言のことですが、特に『かけとり』は非常に新しいもので、今世紀に入ってから作られました。

昨日見た狂言は、どれも女性が出てきます。
女性が出てきて重要な役割を果たす狂言を「聟女狂言」と言うのですが、狂言に登場する女性のタイプは2通りあります。

そのひとつは、とても優しくて気立てが良く、甲斐甲斐しく面倒みてくれる女性で、男なら「こういう女を妻にしたい」というタイプなのですけど… ご面相のほうが～ちょっと～(^▽^;)
ひと目見るなり逃げ出したくなるようなルックスというわけです。
こういう女性を演じられるときは、「乙（おと）」という、お多福のような面をつけます。

そしてもうひとつのタイプは、外見は美女、あるいはそれほどではなくても人並み以上の器量なので、大抵の場合シテの女房になっているのですけど、とても恐い性格で、嫉妬やヒステリーで男を悩ませます。
こういう女房のことを狂言では「わわしい女」と言いますが、演じられるときは頭に美男鬘（びなんかずら）という白い布をつけ、顔は面なしの素顔です。
ということは、狂言師さんはみんなイケメンでなければいけない筈なんですけど、まぁ～、何ごとも例外はあるもので…(^▽^;)

狂言に登場するもっとも恐い女性は、『鎌腹』という狂言に出てくる女房で、鎌を振りかざして亭主を追いかけ回します。
こんな女房がいたのでは、男は命がいくつあっても足りません。
こんな女とは別れたいと思っているのですが、女房は女房で、こんなろくでなしの男とはいつまでも一緒に居られないと思っています。
なので夫婦喧嘩が絶えず、怒った女房が実家に帰ってしまうということもしばしば。
こんなに仲が悪い夫婦なら、離婚する場合も多いのだろうという気がしますが、本当に別れてしまったというケースは、実は1件もありません。
夫婦喧嘩は犬も食わないということですね(⌒∇⌒)

狂言の登場人物が持つ扇は、その人物の地位や立場によって決まっていて、大名は金扇、小名は銀扇、太郎冠者などは鳥の子の扇で、男の場合は白骨ですが、女の場合は黒骨の銀扇で、柄も女性らしく花をあしらったものが多いです。
衣装も女性のものは全体に柄のある暖色のものが多く、金糸銀糸で刺繍をほどこした、華やかなものもあります。

今日は狂言に登場する女性についてのお話でした。
『かけとり』の動画を貼り付けているので、興味がある方のみご覧ください。
2本に分けてありますが、全体で20分程度です。お時間があるときに(^_-)-☆

　狂言『かけとり』
　　作：茂山逸平

　　男：茂山逸平
　女房：茂山茂
　大家：丸石やすし
　酒屋：茂山童司
　後見：島田洋海

　動画提供： 📃茂山千五郎家公式チャンネルクラブSOJA

この狂言のあらすじは⇒✨こちらを見てください。

大晦日に借金を返す（昔はツケをお盆と大晦日にまとめて払っていました）ために、金策に回るも上手くいかない男に、「能がかりで断わればよい」とアドバイスして、さらに能の稽古までつけてやる女房。まぁ～、なんて良く出来た嫁さんなんでしょう。
やがて大家がやって来ました。

男は稽古通りに、能がかりで断りを言うのですが…

　男「大家さんが来るなんて思ってもみなかったよ。何か用？」
大家「思ってもみないなんてことはないだろう。
　　　今日は大晦日なんだから、たまってる家賃を払ってよ」
　男「ボクが家賃を払ったことがないのは知ってるクセに～
　　　こんなところに来ても無駄だから、それよりアキラのところに行ったほうがいいよ。
　　　アイツ、角の蕎麦屋で年越しそばを食ってるんだからさ～」
大家「何～？家賃も払わず年越し蕎麦とはけしからん！
　　　それじゃ蕎麦屋に行ってみよ～♪」

正調の能のセリフ回しなのですが、言ってることはこんなメチャクチャな内容で、このギャップが面白いです。
このあと女房のお囃子が入りますが、楽器を使うわけではなく、全部フリと口真似だけ。
後見は黒子のようなもので、普通は演技はしないのですが、ここではしっかりお囃子に参加して、鼓を打つフリを熱演しています。

この狂言のセリフの中に、「しげる」「まさくに」「たかまさ」「あきら」など、人の名前が出てきますが、これはすべて当家の役者さんの実名です。
狂言は名もなき市井の人々の物語ですから、基本的に登場人物に名前がないので（たまに「太郎」とか「おごう」という名前が出てくることもありますが、これもその人物のの名前ではなく仮称のようなもの）、話の都合上どうしても名前が必要な場合、こういう手法はよく使われています。

すっかりノリノリになってしまった大家さん、舞いながら花道を去って行きます。
この舞台には鏡板はありますが、能舞台ではなく京都祇園の歌舞練場です。
歌舞伎の花道を上手く使った演出も面白いです。

私的見解なのですが、このあとの酒屋の登場シーンは蛇足だと思います。
大家パートだけで狂言として十分に成立しているので、酒屋の場面は「かけとり part2」とかなんとかで、もうひとつ別の狂言にしても良いと思うのですが…

新作狂言『かけとり』鑑賞 ～女は優し、されど女房は強し！！～

新作狂言『かけとり』鑑賞　～女は優し、されど女房は強し！！～